マルチメーター は、「電気はちょっと苦手…」という方でも、1 台持っておくと一気に世界が広がる計測器です。
家電の不調チェックから、車やバイクのバッテリー診断、キャンプ・車中泊の電源管理まで、マルチメーターがあれば「なんとなく不安」を数字で確認できるようになります。
本記事では、
- マルチメーターとは何か
- 初心者でも分かる基本的な使い方
- 失敗しやすい電流測定のポイント
- 乾電池・自動車・キャンプ用バッテリーなどの活用例
- 自分に合ったマルチメーターの選び方
まで、電気が苦手な方にも分かりやすく解説していきます。
1. マルチメーターとは?

1-1. マルチメーターの基本機能
マルチメーター(multimeter)は、その名の通り「複数の電気量を測定できるメーター」です。一般的なモデルでは、次のような項目を測定できます。
- 直流電圧(DCV):乾電池、車のバッテリー、USB 電源など
- 交流電圧(ACV):家庭用コンセント(日本では AC100V)
- 直流電流(DCA):DC モーター、LED、車載電装品などの電流
- 抵抗(Ω):抵抗器、ヒューズ、断線チェックなど
- 導通チェック:配線やスイッチがつながっているか確認
機種によっては、さらに以下のような項目も測れます。
- コンデンサーの容量
- 周波数
- 温度
- ダイオードテスト
- バッテリーの内部抵抗 など
1 台あれば、電気まわりのトラブルシューティングの多くをカバーできる、とても便利な計測器です。
1-2. デジタル式とアナログ式

マルチメーターには大きく分けて デジタル式 と アナログ式 があります。
-
デジタルマルチメーター(DMM)
液晶画面に数値で表示されるタイプ。
現在の主流で、読みやすく誤読も少ないため、初心者〜プロまで幅広く使われています。 -
アナログマルチメーター
針が振れて値を示すタイプ。
値の変化の傾向が分かりやすい反面、目盛りの読み取りには慣れが必要です。
この記事では、現在もっとも一般的な デジタルマルチメーター を前提に説明していきます。
2. マルチメーターの構造と各部名称
2-1. 主な構成
メーカーや機種によってデザインはさまざまですが、基本的な構造は共通しています。
-
表示部(ディスプレイ)
測定値が数字で表示されます。バックライト付きだと暗い場所でも見やすく便利です。 -
ダイヤル(レンジ切り替え)
測定したい項目(電圧/電流/抵抗など)やレンジ(最大値)を選びます。
「オートレンジ」タイプは、自動で最適なレンジに切り替えてくれます。 -
入力端子(機種により名称は多少異なります)
一般的には次の 3〜4 端子があります。- COM:共通端子(マイナス側/黒リード)
- VΩ:電圧・抵抗・導通測定用(プラス側/赤リード)
- mA:数百 mA 程度までの電流測定用
- A(10A など):大電流測定用
-
テストリード(リード線)
赤と黒の 2 本のコードで、先端を測定対象に当てて測ります。
絶縁被覆が傷んでいないか、ときどき確認しておくと安全です。
2-2. 端子とレンジの挿し間違いに注意
マルチメーターに慣れていないと、次のようなミスをしがちです。
- 赤リードを 電流端子のまま電圧を測ってしまう
- 電流レンジのまま電池の+と−を直接つないでしまう(短絡)
これをやってしまうと、内部ヒューズが切れたり、最悪の場合は火花が出たりすることがあります。
電圧を測るときは「赤は VΩ 端子、黒は COM 端子」 と覚えておきましょう。
3. 基本的な使い方(電圧・抵抗・導通)
3-1. 直流電圧(DCV)の測定
乾電池や車のバッテリー、USB 電源などは 直流電圧(DC) です。
測定手順
- ダイヤルを DCV(V⎓ / V–) に合わせる

- 赤リードを VΩ 端子、黒リードを COM 端子に挿す
- 測定したい対象の「+極に赤」「−極に黒」を軽く当てる
- 表示された数値を読み取る
電圧の目安(例)
- 単3アルカリ電池:新品で 約 1.55〜1.60V
- CR2032 ボタン電池:新品で 約 3.2V
- 自動車用 12V バッテリー(エンジン停止時):12.6〜12.8V なら良好
「最近リモコンの効きが悪い」「エンジンのかかりが重い」といったときに、まず電圧を測ると状態を把握しやすくなります。
3-2. 交流電圧(ACV)の測定
日本の家庭用コンセントは AC100V(50/60Hz) です。
コンセントの電圧を測る場合は、必ず ACV(V〜)レンジ を使います。
ただし、感電の危険があるため、作業に慣れていない方にはおすすめできません。どうしても必要な場合は、
- 手や床を濡らさない
- ゴム底の靴を履く
- 片手で操作する(体を電気の通り道にしない)
など、安全に最大限気をつけてください。
3-3. 抵抗(Ω)・導通チェック
マルチメーターは、抵抗値や導通(きちんとつながっているかどうか)も測定できます。

よくある用途
- ヒューズが切れているか確認する
- 延長コードやケーブルが断線していないかチェックする
- スイッチが正常に ON/OFF しているか確認する
導通モードでは、0Ω に近いと「ピーッ」と音が鳴るタイプも多く、画面を見なくても判別できて便利です。
※抵抗や導通を測定するときは、必ず 電源を OFF にしてから行いましょう。
4. 電流測定の基本と注意点
4-1. 電圧測定と電流測定の違い
電圧測定
→ すでに動いている回路に「ちょっとだけ触れて」電圧を測るイメージ。
→ 回路に並列に接続するので、比較的安全に測れます。
電流測定
→ 回路の途中をいったん切り離し、その間にマルチメーターを入れて、
回路の一部として電流を流す イメージ。
→ 直列に接続する必要があります。
この違いを理解していないと、電流測定でショートさせてしまう原因になります。
4-2. 絶対にやってはいけないこと
電流測定で最も危険なのは、
電流レンジのまま、電池やバッテリーの+極と−極に直接リードを当てる
という行為です。これは 完全な短絡(ショート) です。
- マルチメーター内部のヒューズが一瞬で切れる
- リード線や端子が高温になる
- バッテリーが発熱・膨張するおそれがある
- 最悪の場合、火花や発煙・火災につながる危険性もある
DIY の失敗談でも非常に多いパターンなので、絶対に行わないでください。
4-3. 正しい直流電流(DCA)の測定手順
小型の DC 回路(LED ランプ、DC モーター、USB 機器など)を例に、正しい手順を説明します。
-
赤リードを電流用端子に挿す
- 数十〜数百 mA 程度なら mA 端子
- 1A を超える可能性がある場合は A(10A)端子
- ダイヤルを DCA(A⎓ / A–) に合わせる
- 測定したい回路の一部をいったん切断する
- 例:電源のプラス線を途中で分ける
- 切り離した 2 点の間に マルチメーターを直列に接続 する
- 電源 → マルチメーター → 負荷(LED、モーターなど)
- 電源を ON にして、電流値(A/mA)を読み取る
- 測定が終わったら電源を OFF にし、
- 赤リードを 必ず VΩ 端子に戻す
赤リードを A 端子に挿したまま保管していると、次に電圧を測ろうとしたときにショートさせてしまいやすくなるため、片付け時の「リードを戻す」の一手間が安全につながります。

4-4. レンジの選び方の目安
どの電流レンジを使えばいいか迷ったときの簡単な目安です。
| 測定対象の例 | おすすめレンジ |
|---|---|
| LED、Arduino、各種センサー | 200mA 前後のレンジ |
| 小型 DC モーター | 1〜10A レンジ(A 端子) |
| 車載電装品、12V 冷蔵庫など | 10A レンジ以上、またはクランプメーター |
| 家庭用 AC 家電 | クランプメーター推奨(マルチメーター直列は危険) |
5. ケース別活用術:日本でよくあるシーン
ここからは、日本の生活や趣味の中でマルチメーターが活躍する具体的なシーンを紹介します。
5-1. 乾電池(単1〜単4)のチェック
テレビやエアコンのリモコン、子どものおもちゃなど、乾電池は日常で最も身近な電源です。
アルカリ単3電池の電圧目安
| 状態 | 電圧の目安 |
|---|---|
| 新品 | 1.55〜1.60V |
| 十分使える | 約 1.40V |
| 弱り始め | 約 1.20〜1.30V |
| 交換した方がよい | 1.00V 以下 |
1 本でも電圧が極端に低い電池が混ざっていると、リモコン等の不調の原因になります。
2 本や 3 本を直列で使っていることが多いので、どれか 1 本でも 1.1V を下回っているようなら まとめて交換 した方がトラブルが少なくなります。
5-2. 自動車・バイクの 12V バッテリー診断
エンジンのかかりが悪くなってきたと感じたら、まずはバッテリーの状態をチェックしてみましょう。
エンジン停止時の電圧の目安(12V 鉛蓄電池)
| 状態 | 電圧 |
|---|---|
| 良好 | 12.6〜12.8V |
| やや弱い | 12.2〜12.4V |
| 要注意 | 12.0〜12.1V |
| かなり弱っている | 11.9V 以下 |
測定方法
- エンジンを停止し、しばらく置いて電圧が落ち着くのを待つ
- マルチメーターを DCV(20V レンジなど) に設定
- 赤リードをバッテリーの+端子、黒リードを − 端子に接触させる
- 表示された電圧を上の表と照らし合わせて判断する
エンジン始動時のチェック
エンジンをかける瞬間、電圧が一時的に下がりますが、10V を大きく割り込む ようであれば、バッテリーが弱っている可能性が高くなります。
アイドリングストップ車・ハイブリッド車の注意点
- アイドリングストップ車は停止・始動の回数が多く、バッテリーへの負荷が大きめ
- ハイブリッド車は、駆動用電池とは別に 12V 補機バッテリー を積んでおり、こちらが弱るとトラブルにつながります
走行距離が少ない方や短距離走行が多い方は、ときどきマルチメーターで電圧を確認しておくと安心です。
5-3. キャンプ・車中泊向け:LiFePO4 バッテリーのチェック
キャンプや車中泊、非常用電源として人気が高まっているのが LiFePO4(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリー です。
- 長寿命(数千サイクル)
- 深い放電にも強い
- 安全性が高い
といった特徴から、ポータブル冷蔵庫や照明、ノート PC など、さまざまな機器の電源として利用されています。
12.8V 系 LiFePO4 バッテリーの電圧と残量の目安
| 残量のイメージ | 電圧の目安 |
|---|---|
| ほぼ 100% | 13.4〜13.6V |
| 約 90% | 約 13.3V |
| 約 70% | 約 13.1V |
| 約 50% | 約 13.0V |
| 約 30% | 約 12.8V |
| 約 20% | 12.6〜12.7V |
| 10% 以下 | 12.5V 以下 |
鉛バッテリーと違い、LiFePO4 は かなり長い範囲で電圧がフラット なので、電圧だけで正確な残量を把握するのはやや難しいものの、目安として上記の表が参考になります。

よくあるトラブルとマルチメーターの活用
- ポータブル冷蔵庫が止まってしまう
- インバーター使用時に家電がすぐ落ちる
- 走行充電しているつもりが、実は充電されていない
こういったときは、次のポイントをマルチメーターでチェックします。
- 車側バッテリーの電圧:発電機が正常に動いているか
- 走行充電器の入力電圧:起動条件(例:13.2V 以上)を満たしているか
- LiFePO4 バッテリーの電圧:過放電や満充電で保護回路が働いていないか
どの時点で電圧が不足しているのかを調べることで、原因を切り分けやすくなります。
6. マルチメーター以外の電圧監視方法:バッテリーモニター&Bluetoothバッテリー
ここまで、マルチメーターを使った電圧・電流の測定方法を紹介してきましたが、
「毎回テスターを出して測るのは少し面倒…」
「走行中やキャンプ中も、常にバッテリーの状態を確認したい」
という方も多いと思います。
そんなときに便利なのが、バッテリーモニター や Bluetooth 管理機能付きバッテリー です。
マルチメーターが「その場で測る道具」だとすると、これらは バッテリーの健康状態を常時“見える化”するツール というイメージです。
6-1. シャント式バッテリーモニターでの電圧・電流監視
バッテリーモニターは、バッテリーのマイナス側に シャント(分流抵抗) を取り付け、
そこを流れる電流と電圧を常時測定することで、次のような情報を表示してくれます。
- バッテリー電圧(V)
- 充電・放電電流(A)
- 消費・充電された容量(Ah / Wh)
- 推定残量(SOC、%表示)
- 使用時間・残り時間の目安 など
冷蔵庫やインバーターの消費電力、走行充電・ソーラー充電の入力量などを、マルチメーターなしでひと目で確認できます。 ▶ 製品ページを見る
マルチメーターが「スポット的な測定」に向いているのに対して、
バッテリーモニターは 「長期的な電気の使い方の傾向を把握したい人」 に特におすすめです。
6-2. Bluetooth管理機能付きLiFePO4バッテリー
もう一つの方法が、Bluetooth 機能を内蔵した LiFePO4 バッテリー を使うことです。
専用アプリと連携することで、スマートフォンから次のようなデータを確認できます。
- 各バッテリーの 電圧・容量(SOC)
- 充電・放電電流
- セル温度
- 通算サイクル回数
- 保護状態(過充電・過放電・低温保護など)
車内やテントの中からサブバッテリーの状態をチェックしたい車中泊・キャンプユーザーにおすすめです。 ▶ 製品ページを見る
6-3. マルチメーターと組み合わせて使うのがベスト
バッテリーモニターや Bluetooth バッテリーがあれば、日常の電圧監視・残量チェックはとても楽になります。
一方で、配線のチェックや一時的なトラブルシューティング には、やはりマルチメーターが欠かせません。
- 普段の運用 → バッテリーモニター/Bluetooth バッテリーで常時監視
- 異常がありそうなとき → マルチメーターでポイントを絞って詳細測定
というように、役割分担させて使うことで、
車中泊・キャンプ・非常用電源のどのシーンでも、より安全で安心な電源環境を整えることができます。
7. 日本向け・マルチメーターの選び方
最後に、用途に合ったマルチメーターを選ぶためのポイントをまとめます。
7-1. 用途から必要な機能を考える
-
乾電池や簡単な電気チェックがメイン
→ 基本的な電圧・抵抗・導通が測れれば OK。入門機で十分。 -
車・バイク・キャンプ・ソーラーなども見たい
→ DC20V 以上の電圧レンジ、10A 以上の電流レンジ、バックライト付きだと便利。 -
配電盤や 200V 回路なども触る可能性がある
→ CAT III / CAT IV などの安全規格に対応し、信頼性の高いメーカー製を選ぶ。
7-2. 初心者にうれしい機能
-
オートレンジ機能
自動でレンジを選んでくれるので、誤操作が減ります。 -
バックライト付きディスプレイ
車のエンジンルーム内や夜間のキャンプ場など、暗い場所でも見やすくなります。 -
導通ブザー
音で導通を知らせてくれるので、配線チェックがスムーズです。 -
ゴムカバー付き本体
落下時のダメージを軽減し、アウトドアでの使用にも向いています。
7-3. 安全性と品質
マルチメーターには CAT II / CAT III / CAT IV などの安全カテゴリがあります。
家庭用コンセント周りで使うことがある場合は、記載されている安全カテゴリも確認しておきましょう。
また、極端に安価なノーブランド品は、内部ヒューズや絶縁性能に不安が残る場合もあります。
日本語マニュアルが付属しているか、信頼できるブランドか、といった点も選ぶ際の目安になります。
8. よくある質問(FAQ)
8-1. Q1. マルチメーターが「0V」や「OL」と表示されるのはなぜですか?
-
0V と表示される場合
→ 測定対象に電圧がかかっていない、リードが接触していない、レンジの設定が間違っているなどが考えられます。 -
OL(オーバーレンジ)と表示される場合
→ 選択しているレンジの測定範囲を超えているか、抵抗測定で「ほぼ無限大(断線)」を示している可能性があります。
8-2. Q2. 測定値が安定しません。
次のような原因が考えられます。
- リードの接触が不安定
- 端子や電池ボックスが腐食している
- 測定対象の電源自体が不安定
- マルチメーター内部の電池が弱っている
まずは電池残量のチェックと、リードの接触状態を確認してみてください。
8-3. Q3. マルチメーターの電池交換の目安は?
使用頻度によりますが、
- たまに使う程度なら 1〜2 年に 1 回程度
- 頻繁に使う場合は、表示が薄くなってきたタイミングで早めに交換
を目安にすると良いでしょう。
8-4. Q4. コンセントの電流も測れますか?
家庭用コンセント(AC100V)の電流を、マルチメーターを直列接続して測定するのは非常に危険です。
このような場合は、配線にクランプして電流を測る クランプメーター を使うのが一般的です。
9. まとめ:マルチメーターで「電気の見える化」を
マルチメーターは、電圧・電流・抵抗を 1 台で測定できる、とても頼もしい道具です。
- 乾電池の交換タイミングが数値で分かる
- 車やバイクのバッテリーの状態を自分でチェックできる
- キャンプ・車中泊でバッテリー残量を確認しながら安心して電気製品を使える
電気の知識がそれほどなくても、基本的な使い方さえ覚えてしまえば、日常の「なんとなく不安」がぐっと減ります。
さらに、バッテリーモニターや Bluetooth 管理機能付きバッテリーを組み合わせれば、
マルチメーターを使わないときでも、バッテリーの状態を常に把握できるようになります。
まだマルチメーターを持っていない方は、ぜひ自分の用途に合った 1 台を選んで、
まずは身近な乾電池や愛車のバッテリーから、実際に測ってみてください。
数字で状態が「見える化」されると、電気との付き合い方が大きく変わってきます。











































































