日本で電気製品やバッテリーを扱うなら、「PSEマーク」と「電気用品安全法(電安法)」は避けて通れないキーワードです。
とくに近年は、モバイルバッテリー・ポータブル電源・LiFePO4バッテリーなど電池系の製品が増え、「どこまでPSEが必要なのか」が分かりにくくなっています。
この記事では、
- PSEマークの意味・対象・丸形/ひし形の違い
- リチウムイオン電池と「400Wh/L」ルール
- そこから見えてくるLiFePO4バッテリーの位置付けと、スマートなコンプライアンスの考え方
を、できるだけ徹底解説していきます。
PSEマークとは?電気用品安全法の基本
電気用品安全法(電安法)の役割
電気用品安全法は、電気製品による感電・火災などの事故を防ぐための日本の法律です。
政令の別表で「電気用品」として457品目が指定されており、そのうちリスクの高いものが「特定電気用品(116品目)」として区分されています。
対象になるのは、こうした電気用品を事業として製造・輸入・販売する事業者です。
事業者は、
- 事業の届出
- 技術基準への適合
- PSEマークなどの表示
といった義務を負います。
PSEマークの意味
PSEマークとは、「その電気製品が電気用品安全法の技術基準に適合していることを示すマーク」です。
よくある誤解は「国が全部検査して認証している」というイメージですが、実際には:
- 事業者が自社で設計・試験を行い、基準への適合を自主確認
- 一部の高リスク品目(特定電気用品)は、登録検査機関が型式試験を実施
- そのうえで、事業者の責任でPSEマークを表示
というしくみになっています。
PSEマークの種類|丸形とひし形の違い

丸形PSEとひし形PSEの違い
PSEマークには丸形(○PSE)とひし形(◇PSE)の2種類があります。アイコンの形だけでなく、法律上の扱いも異なります。
| 項目 | 丸形PSEマーク | ひし形(菱形)PSEマーク |
|---|---|---|
| 区分 | 特定電気用品以外の電気用品 | 特定電気用品 |
| 品目数 | 341品目 | 116品目 |
| リスク | 比較的リスクが低い一般的な電気用品 | 感電・発火リスクが高めの電気用品 |
| 試験 | 事業者の自主検査が中心 | 自主検査+登録検査機関での型式試験が必須 |
代表的な製品イメージ
丸形PSE(○PSE)
- 炊飯器・掃除機・照明器具などの家電
- ACアダプター、充電器
- モバイルバッテリー など
ひし形PSE(◇PSE)
- 電気ストーブ、電気温風器
- 一部の電源装置、変圧器
- 一部の配線器具 など
ざっくり言えば、「丸=一般」「ひし形=ハイリスクで検査が重い」というイメージで押さえておくと理解しやすいです。
PSEマークの対象製品とは?必要なもの・不要なもの
PSEマークが必要な代表例
電安法で「電気用品」として指定されている457品目には、たとえば次のようなものがあります。
- 家庭用電気機器
- 冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、エアコン、電気ポット、LED照明 など
- 電源関連機器
- ACアダプター、電源装置、延長コード、テーブルタップ など
- 一部の情報機器・映像機器
- 条件を満たすリチウムイオン蓄電池
こうした製品を日本国内で販売する場合、PSEマークの表示が基本的に必須です。
PSEマークが不要なケースもある
一方で、次のようなケースは電安法の対象外となり、PSEマークは不要になります。
- AC100V/200Vにまったく接続しない電池駆動機器のみ
- 電池が機器に内蔵されており、電池単体として流通しないケース
- この場合、PSEの対象は「機器側」であり、電池単体にPSEマークが付かないこともあります。
- 別表に列挙されていない特殊な機器 など
ポイントは、「PSEマークが付くのは『電気用品』として指定された品目だけ」ということです。
バッテリーの議論では、ここがよく混ざります。
バッテリーとPSEマーク|モバイルバッテリー・ポータブル電源の場合
モバイルバッテリーは丸形PSEが必須
モバイルバッテリーは発火事故が多かったことから、2018年の制度改正で電安法の規制対象に追加されました。
経過措置を経て、2019年2月以降、PSEマークのないモバイルバッテリーは販売禁止となっています。
日本で売るモバイルバッテリーには、丸形PSEマークが必須という前提で考えるべきです。
ポータブル電源本体とACアダプター
ポータブル電源(AC100V出力が可能な大容量バッテリー)の場合は少しややこしくなります。
本体は多くの場合、モバイルバッテリーとは別のカテゴリーになり、構造や用途によっては「PSE義務の対象外」と判断される設計もあります。
一方で、付属のACアダプター(充電器)はほぼ確実にPSE対象なので、ここには丸形PSEが必要です。
「本体は任意・ACアダプターは必須」という構図が多い点は押さえておきましょう。
リチウムイオン電池はすべてPSE対象?400Wh/L未満はどうなるのか
電安法における「リチウムイオン蓄電池」の考え方
リチウムイオン蓄電池は、電安法施行令の別表で電気用品の1品目として位置付けられています。
ただし、どんなリチウムイオン電池でもPSEが必要になるわけではありません。
電子情報技術産業協会(JEITA)の解説では、次のように説明されています。
産業用機械器具用のリチウムイオン蓄電池は電気用品としては除外される。
つまり、
- 単電池あたりの体積エネルギー密度が400Wh/L以上
- かつ、自動車用・産業用などの除外用途ではない
という条件を満たすものが、電安法上の「リチウムイオン蓄電池」品目としてPSEマーク義務の対象になります。
結論:400Wh/L未満のリチウムイオン電池は「この品目としてのPSE」は不要
整理すると、
400Wh/L未満のセルは、少なくともこの品目としてPSEマークを付ける義務はない
ということになります。
ここで注意したいのは、この話はあくまで「リチウムイオン蓄電池」というPSE品目に限った条件だという点です。
400Wh/L未満だからといって、
- 組み込み機器のACアダプター
- その他の電気部品
には、別のPSE品目として義務がかかる可能性があります。
LiFePO4バッテリーはどう位置付けられる?
LiFePO4バッテリーは、一般的に:
- 三元系(NMC/NCA)よりエネルギー密度が低く
- その分、安全性・長寿命を重視した化学系
として使われることが多いです。
各社の公表値や技術資料を見ると、体積エネルギー密度が概ね140〜330Wh/L程度のレンジに収まる例が多く、400Wh/Lを大きく下回るのが一般的です。
このため、
と考えられます。
もちろん、仕様によっては例外もあり得るため、最終判断はセルごとの仕様値(Wh/L)を確認する必要があります。
また、PSE対象外だからといって何もしなくて良いわけではなく、IEC 62619 / JIS C 8715-2 / UN38.3 など別の安全規格でしっかり設計・評価を行うことが重要です。
「該当するモデルだけPSE」という考え方が大事な理由
① 精度の高い「モデル別コンプライアンス戦略」
すべての電池に一律でPSEを取りに行くのではなく、
という精度の高い戦略が合理的です。
LiFePO4をはじめ400Wh/L未満のセルを使うストレージ用途では、PSEではなく IEC 62619 / JIS C 8715-2 / UN38.3 等の安全規格と、システムとしての保護回路・筐体設計で安全性を確保するのが現実的な方向性になります。
② 「認証は多ければ多いほど良い」という“認証信仰”からの脱却
一般の消費者・購買担当には、
- 「認証マークが多い=とにかく安心」
という感覚が根強くあります。
- どの法律/規格の対象に該当するかを正しく理解し、必要な認証だけをきちんと取る
- 対象外の部分は、IEC/JIS、UN38.3、MCPC認証、S-JET など別の枠組みで安全性を示す
「とりあえずマークを増やす」のではなく、
なぜこの製品にこのマークが付いているのかを説明できるかどうかが、信頼されるブランドかどうかの分かれ目になります。
PSEマークの取得方法|手続きと注意点
国内メーカーの基本ステップ
ここからは、PSEマーク取得の流れを簡潔にまとめます。
- 製造・輸入事業者としての届出
-
技術基準への適合設計・試験
- JIS/IEC整合規格に基づき、絶縁・温度上昇・異常試験などを実施
- 自主検査と記録保存
- 特定電気用品(◇PSE)の場合は登録検査機関での型式試験
- PSEマークと事業者名等を製品に表示
この流れを理解しておくと、「どこから手を付ければいいか」が見えやすくなります。
海外製品を日本で売る場合の注意点
電安法上の責任主体になるのは、基本的に日本側の輸入事業者です。
海外メーカーの試験レポート(IEC/ULなど)を活用しつつ、JETやJQAなどの登録検査機関に技術基準への適合確認を依頼するケースが一般的です。
まとめ|PSEマークを“量”ではなく“適用範囲”で語る
PSEマークは、「たくさん付いているかどうか」で評価するものではありません。
どの法律・どの品目に該当するからPSEが必要なのか、どの部分はPSEの対象外で、その代わりにどの安全規格でカバーしているのかをセットで説明できてこそ、意味を持ちます。
PSEマークは、電気用品安全法の技術基準に適合していることを示すマークです。
丸形/ひし形の違いは、「一般品目」と「特定電気用品」という区分とリスクレベルの違いです。
リチウムイオン電池は、単電池あたり400Wh/L以上のものだけが、「リチウムイオン蓄電池」品目としてPSE義務の対象になります。
多くのLiFePO4バッテリーはこのラインを下回るため、この品目としてのPSEは不要なケースが多数派であり、代わりにIEC/JIS・UN38.3・防災関連認証などで安全性を示していくのが現実的です。
こうした「該当するモデルだけPSE」という考え方に立つことで、ユーザーの安全を守りながら、ムダのない・説得力のあるコンプライアンスを実現しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
PSEマークの意味は?
PSEマークは、製品が電気用品安全法で定められた技術基準に適合していることを示すマークです。
簡単に言うと、
- 日本で指定された「電気用品」を
- 事業として製造・輸入・販売するうえで
- 最低限満たすべき安全基準をクリアしている証
だと考えてください。丸形かひし形かによって、対象となる品目や必要な試験が変わります。
PSEマークは日本だけの法律ですか?
はい。PSEマークは日本の「電気用品安全法」に基づく制度で、日本国内向けのルールです。
海外には、例えば次のような認証・マークがあります。
- EUの「CEマーク」
- アメリカの「UL認証」
- 中国の「CCCマーク」
これらはそれぞれ別の制度であり、CEやULが付いていても、日本国内で販売する場合は、PSEマークが必要な品目であればPSEのルールを守る必要があるという点が重要です。
PSEマークのないバッテリーは販売できますか?
ケースバイケースですが、「電気用品安全法のPSE対象となるバッテリーかどうか」で答えが変わります。
- 電気用品安全法の「リチウムイオン蓄電池」品目に該当する(例:単電池あたりの体積エネルギー密度が400Wh/L以上など)場合
→ 原則として、PSEマークなしで販売することはできません。 - 一方で、内蔵する単電池1個あたりの体積エネルギー密度が400Wh/L未満の電池は、「リチウムイオン蓄電池」品目としてはPSE対象外になります。
例えば、対象製品の充電ケースにはPSEマークがついていない場合でも、製品ごとの具体的な数値は非公表であっても、内蔵する単電池1個当たりの体積エネルギー密度が400Wh/L未満であれば、電安法上はPSE対象外製品として販売可能です。
PSEマークが無い製品はどうなるのか?
本来PSEマークが必要な電気用品なのに、マークなしで販売している場合は、電気用品安全法違反となる可能性があります。
その結果として、
- 行政指導や回収(リコール)の要請
- 製造・輸入・販売の停止
- 悪質な場合には罰則(罰金・懲役)の対象
といったリスクが発生します。
事業者にとっては、ブランドイメージの毀損や在庫廃棄コストも大きなダメージになるため、「対象品目かどうか」と「表示の有無」の確認は必須です。
PSEマークが本物か確認する方法は?(PSEマークの偽物の見分け方)
完全に見た目だけで真偽を断定することはできませんが、怪しさをチェックするポイントはいくつかあります。
-
マークの形や文字が不自然でないか
- 正規のPSEマークは、ひし形や丸形がはっきりした線で描かれ、「PSE」の文字も明瞭です。
- 偽物では、線がぼやけていたり、文字がかすれていたりします。
-
省略・変形されていないか
- 製品に十分なスペースがあるのに、枠線だけで「PSE」の文字が省略されていたり、極端に小さく読めない場合は要注意です。
-
事業者名や定格表示がセットで書かれているか
- 正しく表示されている製品は、PSEマークだけでなく、事業者名・定格電圧・定格電流などの表示も揃っています。
-
どう見てもPSE対象な製品なのにマーク自体が無いか
- 典型的なACアダプターやモバイルバッテリーなのに、どこを見てもPSEマークが見当たらない場合は、そもそも未取得の可能性があります。











































































